実はスタートアップ大国のヨーロッパ小国エストニアに行ってきた

みなさんお久しぶりです。記事の更新が滞っていましたがまた再開させていただきます。

突然ですが、エストニアと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。

 

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ソビエト連邦バルト三国Skype......以上!

それ以外のイメージが特にないかと思われます。ですが、近年エストニアではIT産業、電子政府制度やソフトウェア関連のスタートアップの隆盛があり、旧ソ連各国の中でも比較的安定した国家であると知られています。

孫泰三さんも称賛しており、筆者もその噂を聞きつけて、アメリカから日本へ戻る途中で「電子居住権」(e-Residency)の受け取りも兼ねて、エストニアの首都タリンへ視察に行って参りました。

 

エストニア

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ご覧の通りバルト三国の最北で北欧に最も近くに位置しています。ヘルシンキフェリーで二時間程度で行くことができるため、フィンランド湾に面する主要都市のひとつでもあります。

高緯度に位置しているため、筆者の訪れた6月上旬でもコートが必要なほど寒く23時頃までも明るい白夜に非常に近い現象をました。現地の方曰く、寒すぎるので視察に来る人たちの存在は夏(6~8月)以外ははたと消えてしまうそうです。

意外な点としては、一人当たり名目GDP$27,880は世界で41位(2014年)で旧ソ連の国の中では最も大きいです。また、旧ソ連国で初めてユーロ導入国であり、次にラトビアリトアニアと続いてきました。公用語エストニア語で、歴史的背景よりロシア語も盛んに使用されています。エストニアに関する記事では多くの人が英語を話すことができる人が大多数というものをよく目にしますが、個人的にはそこまででもないと感じました。

また前述のとおり、Skypeを成功モデルとしたITスタートアップが盛んであり、政府による経済統制がない市場放任型を取っており、ヨーロッパのIT企業のオフショア開発の一つとなっています。

 

IT産業とスタートアップ

言わずもがなエストニアのスタートアップエコシステムの隆盛はこの国発祥のSkypeによるところは大きいです。F Venturesの両角さんのmediamでも触れられていましたが、Skypeマフィアなるものがあるそうで、成功した起業家がシリアルアントレプレニュアー、投資家、インキュベーターになり後続のスタートアップを支えるという流れが出来ています。

 

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タリン郊外にあるSkype本社。アポなし突撃したがさすがに追い出されました。

 

産学連携施設・MEKTORY

またエストニアは早期のIT教育や国際学力調査で欧州の上位国としても知られており、産学の連携がうまく取れている印象です。Skypeの本社のすぐ近くにタリン工科大学(日本では会津大学と提携しているそうです)があり、そこには学生と企業向けのコーワーキングスペース兼インキュベーター施設のMEKTORY (Modern Estonian Knowledge Transfer Organization For You)があります。ここではSamsungEricssonなども出資しているそうで、ミーティングルーム、ラボ、オフィスなど完備され、コンペやインキュベーションなどが行われています。また、早期のIT教育を支えるという点で、子供向けのワークショップなども行われています。政府が大学や研究機関、企業を巻き込んでIT産業を強化しようとしているエストニアのグローバル志向を持ったスタートアップエコシステムの縮図を見ることができるのではないでしょうか。

 

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ここはオープン施設なので事前のアポなしでも館内の見学は可能です。

 

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Science Park Technopol 

また、MEKTORYの隣の建物にはTechnopolというインキュベート施設が存在します。ここでは、シードアクセラレーションプログラムが提供されており既に150ものスタートアップを輩出しているそうです。ここでも元Skype関係者やエンジェル投資家たちがスタートアップ支援をしているそうで、エストニアではSkypeがスタートアップのロールモデルとしてうまく機能していることがうかがえます。

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e-Residency

筆者がエストニアに来た本当の理由はこの電子居住権 (e-Residency)の受け取りです。

e-Residencyとは公式サイトによると、「世界初の国家による電子居住権で、これにより、世界中の人がオンラインでエストニア内に会社を設立し、どこにいるかに関わらずビジネスオペレーションが可能となる(”The Republic of Estonia is the first country to offer e-Residency, a government-issued digital identity that empowers entrepreneurs around the world to set up and run a location-independent business.”)」そうです。

 

何ができるのか

こちらもエストニア国民には全員IDが配布され、日本のマイナンバー制と似たようなものではという話もありますが、大きな違いは情報の対称性にあるかと思います。一見、監視社会になりうると思われるかもしれませんが、この仕組みでは国民が政府も監視することが可能となり、早期のIT教育を受けているエストニアの人たちはその利点の方を理解しているようです。またそれに加えて、国民は投票も納税もオンラインで可能だそう。(e-Residentsは投票権や実際の居住権は持たない。)

このように良くも悪くも極めて対称性の高い相互監視身分証であるため、ブラックビジネス(ロシアからのそのようなビジネスは多いそう)や銀行口座だけ作ってタックスヘイブンとして使用するなどというのは難しいのだと思います(政府がそのような目的で作ったわけではないので)。なので、実際このe-Residencyを有効活用してビジネスする場合は上手にエストニアを絡めてインボイスを最小化するなど、ロジスティックを考えるのが重要かと思います。クリーンなビジネスを心がけましょう。

 

電子国家誕生の理由

 e-Residencyが生み出された理由にはエストニアの歴史的背景があるようです。

エストニアは1971年にロシア帝国が崩壊し、再びソ連への併合を経て、1991年ソ連崩壊後の独立しました。バルト三国でもっとも小さく、人口も130万人程度の国家は、常に巨大なロシアからの侵略・支配にさらされてきた。現在でも、米大統領のトランプのNATOに関する発言もあり、ロシアからの侵攻に備えて他のバルト三国や旧ソ連国と同様に訓練がなされています。特に、ロシアに最も近いEU都市のナルヴァでは、反ロシア意識が強く残っています。

このように独立後でも、再び国土を侵攻されるかもしれないという意識は根強く残り、そこから電子国家という発想が生まれたそうです。物理的な領土を失い、行政の機能が働かなくなったとしてもクラウドというデジタル上の国土にアクセスすることで、同胞が繋がり国家が存続し続ける。

このように必要に迫られたり、危機に晒されたりするなどの強烈なインセンティブがあるからこそ新しい発想が生まれ、いちはやく実行に移してみるというのは、イスラエルとも似ているなとも思いました。

 

e-Residencyの取得方法

応募はオンラインのフォームを埋めるだけ。必要なのはパスポートなどの身分証や顔写真、申請料くらいでしょう。あとは承認と発行されるのを待ち、メールを受け取り次第、事前に選択した指定のピックアップポイントに取りに行くだけ。筆者はタリン郊外にある警察署を選択しました。(申し込み方法はこちらに詳しく書いてあります。)

 

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エストニアでのピックアップポイントは警察署。

 

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お役所仕事はどこも同じようなところなのだなと思いながら、待つこと10分。

 

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 このような形でe-Residencyは受け取れる。

 

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このようにして、レジデンスカードをポートに挿すことによってオンラインでの身分の証明、ビジネスの契約や支払いなどがすべてオンラインでできるという仕組みです。本カードを取得後は、銀行口座を開いたり、会社を登記したりを仲介してくれる第三者の民間企業に依頼可能です。

 

ここまで読んで、e-Residentになるのめんどくさと思った方、安心してください。エストニアに行く必要は全くありません!!実はピックアップセンターは世界中の国々にあります(もちろん、日本・東京にも)。国の領土へ足を踏み入れずとも、電子居住権が手に入ることが本当の意味でのDigital Global Citizenだそうです。興味のある方はぜひ。

 

話は変わりますが、最終日一人バーで飲んでいたらアパートのオーナーとその友人とばったり出会い、一緒に飲むことになったのですが、その友人がエストニアでビジネスをする外国人だそうで、実際エストニアはビジネスがしやすいそうです。ただ、今もてはやされているオンラインビジネスを行おうとすると、エストニアとのオンライン上での支払いのアグリーメントがヨーロッパ企業ですらないなどという落とし穴に出くわすそうで、まだオーソドックスな方法ではないよう。今後、新たに具体的なe-Residencyの使用方法など分かり次第シェアさせていただきます

 

追記

北欧やモスクワともアクセスがいいですし、タリン旧市街は保存状態の大変良い市街地としてユネスコ世界遺産に登録されていますので、ヨーロッパの観光地としても楽しめますよ。

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(参考文献:http://farsite.hatenablog.com/entry/2016/10/29/112517